最近、ジャンク屋さんで珍しいものを見かける回数が減ってきたので、つい余計なものを購入してしまいがちになってしまいます。
そろそろ年末の大掃除で出てくるゴミがジャンク屋さんの店頭に並ぶ時期かもしれませんが、先走ってこのようなものを購入してしまいました。
1988 年に発売されたヤマハのシーケンサー「QX5FD」です。
お値段 1,000 円、動作未チェック品ということで動作しなかったときのことを考えると買うのにかなり勇気がいりました。
今から 30 年前の機器ですから、動作しない可能性のほうが高いですし、動作したとしても使えないかもしれません。
それに、このサイズ感。
幅 350mm、高さ 75mm、奥行き 300mm、質量 3kg ということで、結構デカいです。ウンともスンとも言わなかった場合、文鎮として利用するにしてもオーバースペックです。
そんなわけで期待はしていませんでしたが、なんか普通に動いてしまったようなので、今回はこれを使って音楽を演奏してみたいと思います。
シーケンサーとは何か?
そもそもシーケンサーとは何なのか。
今では誰でもパソコンを使って簡単に打ち込み音楽を作れるようになりましたが、当時はシーケンサーという機器を使って打ち込み音楽を制作していました。
打ち込み音楽は、おもに MIDI という規格のデータを使用し、パソコン (DAW ソフト) やシーケンサーなどに入力された MIDI データを再生することで機械に自動演奏させることができるという仕組みになっています。
パソコンで音楽を制作するときに使用する DAW ソフトの中にシーケンサーの機能も含まれているので、シーケンサーという言葉は聞いたことがある人も多いと思います。
かつて私もシーケンサーというのは DAW ソフトのことだと思っていましたが、DAW ソフトなんかが存在しない時代、MIDI データを入力・再生するために使われた機器がシーケンサーと呼ばれるものだったのですね。
実物に触れるのはこれが初めてです。
シーケンサーというのは基本的に MIDI データを入力・再生するだけのものですから、これ単品では音は鳴りません。別途、MIDI 音源モジュールという機器を接続してやる必要があります。
DAW ソフトで言うと、シーケンサーはピアノロールなどで音符などを入力する部分。MIDI 音源モジュールは VST や AU のような音源部分といったイメージでしょうか。
ヤマハのシーケンサー QX5FD
さて、今回購入したヤマハのシーケンサー QX5FD ですが、目立った傷などはなく状態は非常に良さそうです。
はかり知れない可能性を凝縮した、高密度シーケンサーというキャッチコピーとともに、希望小売価格が 89,800 円ということで、かなり高級品だったようです。
録音トラック数は 8 トラック、データ容量としては 64KB までのデータが記録できるようです。
MIDI 入力と MIDI 出力、MIDI スルーの接続端子が用意されており、MIDI 鍵盤などを接続すれば演奏のリアルタイム録音や、ステップ入力も可能です。
そして右側についている突起物は 3.5 インチ型フロッピーディスクドライブです。QX5FD という型番の "FD" の部分はフロッピーディスクという意味だったのですね。
これの前のモデルは QX5 という型番で、そちらはフロッピーディスクではなくバッテリーバックアップ、つまり電池でデータを保持する仕組みとなっています。
自分で作った音楽というのは大切なデータです。バッテリーバックアップという、ファミコンカセットと同じような仕組みで保存されているというのは不安ですから、フロッピーディスクに保存できるという仕組みはありがたいところです。
フロッピーディスクに MIDI データが保存できるのならパソコンにデータを取り込んだり、パソコンで作成したデータを読み込んだりもできるんじゃない?
なんて思ったのですが、このフロッピーディスクドライブ、パソコンでよく使われていた 2HD ではなくちょっとマイナーな 2DD なんですね。ワープロで使われてたぐらいしか知りませんし、ジャンク屋さんで見かけたこともありません。
ラッキーなことにフロッピーディスクが入っていました。
しかし、ヤマハ純正の 2DD フロッピーディスクということで、これはこれで使うのがもったいないような気がしたので、ジャンク屋さんを巡ってなんとか TDK の 2DD フロッピーディスクを入手してきました。
2DD に対応したフロッピーディスクドライブがあればパソコンでデータを読み込むこともできるようですが、QX5FD のデータは一般的な SMF や E-seq 形式ではなく独自形式だという情報を見かけましたので、今のところ 2DD のフロッピーディスクドライブは購入していません。
ところでこの QX5FD、前のモデル QX5 で搭載されていたバッテリーバックアップが廃止されているので、電源を切るとメモリ上のデータやシステム設定などは消えてしまいますからフロッピーディスクは必須です。
QX5FD を使ってみる
QX5FD を使って演奏するためには MIDI 音源モジュールが必要です。
そこで用意したのがこちら。
ヤマハの MIDI 音源モジュール「MU2000 Extended Edition」です。希望小売価格 119,800 円ということで、これは私が当時、定価で購入したものです。
音楽制作を始めた頃、人に勧められて買ったものですが、すでに DAW ソフトで VST が使えるような時代だったこともあり、この MIDI 音源モジュールはほとんど使うことなくダンボールに封印されました。
10 年以上の時を経て、ようやく MU2000 の使いどころができました。
それでは実際に QX5FD を使って音楽を作って演奏してみましょう。以前、Fostex X-28H を購入したときの記事で適当に作った即興の曲「花枯れる」のデモテープをもとに曲を完成させたいと思います。
参考 カセット MTR、Fostex X-28H をキレイにする
用意したもの
それでは、QX5FD で演奏するにあたって用意したものをご紹介します。
YAMAHA MU2000 Extended Edition
MIDI 音源モジュールです。当時としては最高レベルのスペックを誇る MIDI 音源モジュールで、ピアノやストリングスのサウンドは現在のソフトウェア音源とも十分に戦える気がします。
QX5FD の MIDI 出力端子から MU2000 の MIDI 入力端子に MIDI ケーブルを接続します。
MU2000 の L と R の音声出力端子から音が出ますが、この端子からどこに接続するのかは後ほど説明します。
Fostex X-28H
前回、デモテープの制作で使った 4 トラックカセット MTR です。ジャンク屋さんで 300 円でしたが問題なく動作しています。
X-28H には Tape Sync という機能がついており、MIDI クロック信号を FSK と呼ばれる同期信号に変換したものをトラック 4 に入力して録音することで、DAW ソフトやシーケンサーなどと MIDI クロックを使ってテンポを同期することができます。
トラック 1 ~ 4 の入力端子で録音した 4 つのトラックはそれぞれトラック 5 ~ 8 に割り当てられ、音量、パン、AUX のセンド量が調整できるようになります。
今回はシーケンサー QX5FD と同期させるため、QX5FD から出力される FSK 信号を X-28H のトラック 4 の入力端子を使って録音します。この信号はトラック 8 に割り当てられるため、カセットテープの音声トラックとして使用できるのはトラック 5 ~ 7 のみとなります。
ここまでで X-28H のトラックは以下のようになっています。
- トラック 5: ドラム + ベース (テープ録音)
- トラック 6: 闇音レンリ ボーカル (テープ録音)
- トラック 7: 闇音レンリ コーラス (テープ録音)
- トラック 8: FSK 信号 (MIDI クロック信号)
トラックを節約するため、音量やパンの操作があまり必要ないドラムとベースはあらかじめ 1 つのトラックにまとめました。
すでに 4 トラックすべてを使い切っていますので、X-28H 単体でさらに別の音を重ねたい場合はオーバーダビングしてトラックをまとめるか、ミックスダウンするときにトラック 1 ~ 4 の入力端子を利用してリアルタイムで演奏するしかありません。
トラックをまとめてしまうと音量やパンの操作がしづらくなってしまいますから、今回はリアルタイムで演奏する方法を選択することになるのですが、そこで登場するのがシーケンサーです。
YAMAHA QX5FD
今回の主役 QX5FD、ジャンク品で 1,000 円です。
録音した FSK 信号は X-28H の SYNC 端子から出力されるので、これを QX5FD の TAPE IN 端子に入力すると X-28H と QX5FD のテンポが同期します。
ちなみにテープに録音された FSK 信号は、ピーヒャラララ~っていう昔の電話回線にアナログモデムを接続するときの音みたいなやつなので、うっかり X-28H のトラック 8 の音が鳴ってしまわないように注意が必要です。
QX5FD から出力された MIDI 信号は MU2000 に入力され、MU2000 の L と R の音声出力端子から音が出ます。MU2000 は L と R を合わせてステレオとして出力しますが、ステレオ信号は MTR では扱いづらいので L と R をそれぞれモノラルの 1 トラックとして利用します。
つまり、オルガンの音を L に、パッドの音を R に思いっきりパン振りして、X-28H のトラック 1 の入力端子に L を、トラック 2 の入力端子に R を入力してやることで、トラック 1 をオルガン、トラック 2 をパッドとして単体で扱うことができるという寸法です。
ここまでで X-28H のトラックは以下のようになっています。
- トラック 1: オルガン (QX5FD + MU2000)
- トラック 2: パッド + ピアノ (QX5FD + MU2000)
- トラック 5: ドラム + ベース (テープ録音)
- トラック 6: 闇音レンリ ボーカル (テープ録音)
- トラック 7: 闇音レンリ コーラス (テープ録音)
- トラック 8: FSK 信号 (MIDI クロック信号)
ゲームボーイ + ポケットカメラ + KORG monotron DELAY
せっかくなので空いているトラックを使って楽器をリアルタイムで演奏して遊びましょう。用意したのは初期型ゲームボーイと、ポケットカメラというカセット。どちらもジャンク屋さんで 100 円でした。
このポケットカメラ、白黒の写真が撮影できるだけのクソゲーかと思いきや、DJ モードという簡単なシーケンサーのような機能が搭載されているんです。
シーケンサーといってもメロディ、ベース、ドラムの 3 パートを 1 小節鳴らせるだけというシンプルなものですが、DJ モードという名前のとおり DJ プレイなどで使うと面白いエフェクトになりそうです。
とは言え、ゲームボーイの音をそのまま使うだけではいわゆるチップチューン的なピコピコサウンドになってしまいますので、KORG monotron DELAY というオモチャのアナログシンセに接続することでカオスなサウンドにしてみようと思います。
そういうわけで最終的に X-28H のトラックは以下のようになりました。
- トラック 1: オルガン (QX5FD + MU2000)
- トラック 2: パッド + ピアノ (QX5FD + MU2000)
- トラック 3: ゲームボーイ + ポケットカメラ + KORG monotron DELAY (リアルタイム演奏)
- トラック 5: ドラム + ベース (テープ録音)
- トラック 6: 闇音レンリ ボーカル (テープ録音)
- トラック 7: 闇音レンリ コーラス (テープ録音)
- トラック 8: FSK 信号 (MIDI クロック信号)
YAMAHA Magicstomp UB99
X-28H は AUX センドリターンにも対応しており、エフェクターなどを利用して外部からエフェクトをかけることができます。
MU2000 はなかなか音質の良い MIDI 音源モジュールではありますが、そのままの音はやはり MIDI っぽい音ですから、周りの音から浮いてしまいがちです。
そこで Magicstomp というマルチエフェクターを使って X-28H の AUX センドリターンでリバーブをかけてやることで音を馴染ませてみます。
これもジャンク品、お値段は 500 円でした。
この Magicstomp というエフェクター、パソコンから専用ソフトを使ってデータを書き換えることで様々なエフェクトを作り出せるという代物なのですが、日本ではあまり人気がなくてすぐにディスコンになったらしいです。
My Bloody Valentine のシューゲイザーギターで使われているリバース・ゲートというエフェクトが使える数少ないエフェクターでもありますが、Magicstomp のお話はまた別の機会に。
YAMAHA CBX-K1
シーケンサーに MIDI を入力するために MIDI キーボードを使いました。YAMAHA の XG データの入力を考慮して作られたキーボードなので MU2000 との相性は良い感じです。
ジャンク屋さんで 500 円でした。
これは MIDI データの入力を効率化するためだけに使用するので、シーケンサーに MIDI データを入力した後はもう使用しません。
Logicool C600
せっかくなので動画も撮影してみます。もちろんこれもジャンク品、300 円。
有効画素数 200 万画素、最大フレームレート 30fps とのことですが、720p で撮影すると 15fps になってしまいます。まぁ、大した動画じゃないのでそんなことは気にしません。
演奏してみる
ほとんどジャンク品で制作した、なんだか良く分からない曲「花枯れる feat. 闇音レンリ」です。
結論
置く場所がない。
DTMトラック制作術 〜良い音の秘密はトラック数にあり
スタイルノート