ジャンク屋さんで見つけた Fostex の 4 トラックカセット MTR「X-12」、動作未チェック品ということでお値段 300 円。
以前に購入した Fostex の X-28H は機能・音質ともに満足度が高かったのですが、サイズが大きくて置き場所がないという問題がありました。
参考 カセット MTR、Fostex X-28H をキレイにする
X-28H と比べると X-12 は幅 275mm、奥行き 177mm、高さ 68mm、質量 1.1kg ということで気軽にデスクに設置できるサイズ感ですし、持ち運びもしやすいです。デザインも X-28H のような機材っぽさはなく、シンプルでポップな印象です。
発売日の情報がほとんど見当たらなかったのですが、Internet Archive に当時の製品紹介の記事が残っていましたので、恐らく 2001 年あたりの製品だと思います。
Fostex X-12 でできること
X-12 は 4 トラックのカセット MTR ですが X-28H のように多機能ではなく、単純に 4 つの音を重ねることができるだけの簡易な仕様となっています。
カセットテープはハイポジション対応でそれなりに高音質な録音が可能となっています。
テープスピードは一般的なラジカセと同じなのでラジカセで録音したテープを音源としてそのまま使用できるといったメリットがあります。
ハイスピードな X-28H と比べると音質は劣りますが、温かみのあるローファイな音作りは X-12 のほうが使えます。
端子は、入力が 1 つとライン出力が 1 つ、それからヘッドホン出力が 1 つあるだけです。
入力端子にはゲインを調整するためのノブが付いているので、ギターやマイクなど音量の異なる楽器を接続することができます。
また、入力端子とノブを上手く使えばミックスダウンのときにリアルタイムで演奏した楽器を重ねることもできそうです。
録音の操作は簡単で、入力端子に楽器を接続し、本体上部の 4 段階切り替えスイッチでどのトラックに録音するかを選択してから REC ボタンを押すだけです。
各トラックに録音した音声はそれぞれパンと音量を調整することができます。
パン調整のノブや音量調整のフェーダーは大きめなので微調整もしやすいです。
なお、パン調整のノブや音量調整のフェーダーは再生のときだけ有効で、録音のときはどの位置にあっても影響はありません。
音量メーターは入力に対してのみ反応するようで、再生のときはまったく動作しませんでした。
ところで、普通のカセットテープにどうやってトラックを 4 つも記録しているの?と疑問に思ったのですが、仕組みは思ったより単純でした。
豆知識
一般的にカセットテープは、L チャンネルと R チャンネルのステレオ音声で記録されますが、この L チャンネルと R チャンネルはそれぞれモノラル音声で 1 つずつトラックを使用しています。
これだけだと 2 トラックなのですが、カセットテープには A 面と B 面があって、裏返すと B 面にもステレオ音声で記録できますよね。
ラジカセの場合
ラジカセを使ってカセットテープに録音した音声は上の図のように記録され、再生するときは下半分の 2 トラックのみが再生されるようになっていて、裏返すと B 面が下半分に来るわけですね。
4 トラックカセット MTR では A 面・B 面を無視して、片道ですべてのトラックを使い切るので、A 面の 2 トラックと B 面の 2 トラックを合わせて 4 トラック使えるというわけです。
4 トラックカセット MTR の場合
つまり、4 トラックカセット MTR で録音したカセットテープには A 面しかなく、これをラジカセで再生すると A 面はトラック 1 と 2 のみが再生され、B 面はトラック 3 と 4 が逆再生されてしまうというわけです。
Fostex X-12 を使ってみる
それでは Fostex X-12 を使って音楽を作ってみたいと思います。
トラックは 4 つしか使えませんし、録音したトラックを 1 つのトラックにまとめる機能もありません。AUX センドリターンもありませんし、イコライザーもありません。
4 つのトラックに音声を録音し、それを同時に再生することができるだけですので、複雑な曲を作ったりバランスの良いミックスをしたりすることは至難の業です。
そこでアナログテープにぴったりな、ローファイ・ヒップホップというジャンルに挑戦してみようと思います。
と言っても、アナログレコードやサンプリングなどは使いません。ヒップホップっぽいビートを中心とした、音質が悪いだけのなんだか良く分からない曲というだけですから、ローファイ・ヒップホップもどきと呼んでおきましょう。
用意したもの
まず、Fostex X-12 で音楽を作るのに使用したものをご紹介します。
Fostex X-12
今回の主役、4 トラックカセット MTR、Fostex X-12 です。ジャンク屋さんで 300 円でしたが、問題なく動作しました。
4 つのトラックにあらかじめ音声を録音しておきますが、せっかくのアナログテープなのでなるべくパソコンは使わずに制作したいと思います。
- トラック 1: ドラム
- トラック 2: パッド + シンセ
- トラック 3: 闇音レンリ、エレノア・フォルテ
- トラック 4: ギター
とりあえずこんな感じの単純な構成にしてみましたが、入力端子を使ってリアルタイムで演奏することであと 1 トラックだけ増やすことができますのでキーボードを重ねようと思います。
カセットテープは前回の録音遊びで使ってしまいましたので、100 円ショップで購入してきました。
なるべくローファイなサウンドにしたいので、ハイポジションではなくノーマルポジションを使用します。
ハイポジションのテープと比べると高音域が弱かったりノイズが多かったりしますが、ハイレゾなどのキラキラしたサウンドに疲れた耳には優しい音です。
100 円ショップなので価格はもちろん 100 円です。
iPod touch GarageBand
アナログの音が云々などと言いつつ、いきなりハイテクな機材が登場です。これはトラック 1 のドラムとして使用します。
iPod touch の GarageBand ということで、どうせガレバン使うのなら全部ガレバンで作ればいいじゃない。と思われてしまうかもしれません。
しかし、私はドラムマシンを持っていませんし、キーボードについているドラム音源を使うというのも考えたのですが、キーボードは別の役割で使うので却下ということで、結果、このような選択となりました。
GarageBand と言っても、打ち込みはせずスマートドラムという機能を使います。
スマートドラムはグリッドにドラムを配置するだけで自動的にビートを演奏してくれるというもので、ドラムマシンの代わりに丁度良いのです。
音源はプリセットの中に Hip Hop Drum Machine というものがありましたので、これを使用してみます。
もちろんビート作成は運まかせ。画面の左下にあるサイコロボタンを押すと、ランダムでドラムパターンが作られます。なんでもオッケー、これで行きましょう。
iPod touch のイヤホンジャックから直接 X-12 の入力端子に接続して、ドラムパターンを再生したものをそのまま録音します。
残念ながら iPod touch はジャンク品ではなく、発売当時 (10 年前) に新品で購入した第 4 世代です。当然、すでにサポートは終了しており、ガレバンもアップデートできません。
YAMAHA MU2000 Extended Edition
前回、ヤマハのシーケンサー QX5FD に演奏させるときに使用した MIDI 音源モジュールですが、直接 MIDI キーボードを接続すれば、キーボードの音源としても使えます。
参考 ヤマハのシーケンサー QX5FD と闇音レンリで遊んでみる
トラック 2 のパッドはこれを使って適当に演奏した音を録音してみます。
MU2000 にはパフォーマンスモードという、MIDI チャンネルを 1 つに制限する代わりに複数の音を重ねた豪華な音色が使えるようになる機能があります。
トラック数を節約するため、これを使ってなるべく深い音でパッドを鳴らし、ベースの役割も兼ねようと思います。
MU2000 もジャンク品ではなく、発売当時 (10 年以上前) に新品を定価で購入したものですが、ほとんど使うことなくダンボールにしまっていました。
Remorg + KORG microKEY-25
今回は、さらに新たなアイテム、ソフトウェアシンセサイザー「Remorg」を使ってみます。
これはアナログシンセサイザーをシミュレートしたソフトウェア音源で、アナログシンセサイザーの仕組みを理解するために Minimoog をお手本に開発したオリジナルの VST です。
画面はまだ開発中のものですが、これを使って矩形波を 3 つ重ね、特徴的なシンセリードを作ってみました。
ソフトウェアシンセサイザーなのでパソコンを使わないと音が出ません。
仕方なく MIDI キーボードの KORG microKEY-25 をパソコンに接続して演奏し、パッドとシンセの音をまとめてトラック 2 に録音しました。
闇音レンリ、エレノア・フォルテ
トラック 3 はボカロです。これもパソコンを使わないと鳴らせませんので、パソコンであらかじめ歌詞とメロディーを作り、ボーカルとコーラスを重ねてトラック 3 に録音しておきました。
今回は英語のボカロ、エレノア・フォルテを使ってみたかったので歌詞に英語を含めました。日本語の部分は闇音レンリ、英語の部分はエレノア・フォルテです。
Fender Stratocaster
トラック 4 はギターです。
X-12 は AUX センドリターンに対応していないのでリバーブを使ってトラックを馴染ませることができません。ギターを直結して録音するとかなり浮いてしまうので、マルチエフェクターを使って少しトレモロをかけてごまかします。
Stratocaster もジャンク品ではなく、当時 (10 年以上前) 、島村楽器で新品をほぼ定価で購入したものです。マルチエフェクターは YAMAHA Magicstomp UB99 ですがジャンク品で 500 円でした。
CASIO SA-46 + KORG monotron DELAY
4 つのトラックに加えて、ミックスダウンのときに入力端子にキーボードを接続し、リアルタイムで演奏して効果音のように使おうと思います。
CASIO SA-46 を直結するだけだとギターと同じく浮いてしまうので、KORG monotron DELAY を経由してディレイをかけてごまかします。
ここで問題になるのが monotron DELAY のホワイトノイズです。
ローファイなのにノイズを気にするのも変な話ですが、このガジェット、演奏していないときでも結構な音量で「サーッ」というノイズが出てしまうのです。
発生するノイズにもフィルターやディレイがきくので、その音自体を効果音のように使って宇宙的なサウンドを作って遊ぶこともできるわけですが、普通にディレイとして使いたいだけなのでそのようなノイズは不要です。
そこで X-12 の入力端子の横についているゲイン調整のノブを駆使して、無音のときは入力の音量を下げることでノイズを目立たなくします。
演奏してみる
今回はパソコンを使わずにとは行きませんでしたし、ジャンク品ばかりというわけでもありませんが、一応、4 トラックカセット MTR で制作したローファイ・ヒップホップもどきな曲「短絡 feat. 闇音レンリ, Eleanor Forte」です。
結論
Fostex X-12 はシンプルで操作も簡単です。
曲を作りこむには少々機能が不足しているかもしれませんが、思いついたメロディをすぐに録音できるので、アイデアのスケッチやデモトラックの制作などの用途で気軽に使えそうな MTR です。
今回はノーマルポジションのテープを使ったのでこもったような音になっていますが、ハイポジションのテープを使えば高音域の特性が良くなりますので、ローファイな音楽だけでなく普通にバンドサウンドなどでも活用できると思います。
でも、あえてベロンベロンに伸びたテープで奏でるローファイ・ヒップホップってなんだか中毒性があって素敵なんですよね。
そういうわけで、いつもどおり時代に逆行しているなげやりでした。